腎臓・透析関連領域は幅広い分野を包含しており、豊富なキャリアデザインが可能な診療科の一つです。腎代替療法を例にとっても、維持血液透析患者さんの診療場面では「透析患者の総合診療医」である事が求められますし、急性血液浄化の分野に特化しintensivistとして救急医療の分野で活躍する腎専門医も増えてきています。血液透析用ブラッドアクセスの作成維持に活躍する医師は、血管外科出身者だけではなく、内科医も多くいます。腎炎・ネフローゼの専門家に成るには、生理学・病理学の他、栄養学・免疫学の知識も要求され、使用する薬剤も降圧薬、利尿薬からホルモン剤、免疫抑制剤や生物製剤まで、幅広い経験が必要です。電解質の分野では、他科医師のコンサルテーションに適切に対応する能力が求められます。後期研修期間中にもう一度自分の将来について深く考える事が求められます。学生の頃に想像していたより遥かに多い選択肢に、目移りして決められなくなるかもしれません。
また、当診療科は女性医師にも選ばれます。出産や育児で一時臨床を離れる必要が生じても、その後の復帰を皆で応援できます。例えば血液透析の回診を想像してみてください。週三回通院する患者さんを複数の医師で担当します。他の医師の診療内容を参考に自分の診療スキルをup to dateできますし、自分の得意分野を活かして、苦手な部分は他の医師に遅滞なく相談可能です。研修をしっかり終了していれば、自信を取り戻すのにそう長くはかからないでしょう。
また、当診療分野は疫学研究も盛んです。基礎研究だけではなく、統計学を駆使して実診療に役立つ新知見を探しましょう。国内外の教育・研究施設への研修や留学の希望には最大限協力します。何歳になっても大学院進学は可能です。
当科は「臨床に役立つ研究」を行い「得られた成果を無駄にしない(学会・論文に発表する)」ことをモットーに、臨床研究から基礎研究まで多くの研究テーマを遂行しています。大学院生は、臨床科にありがちな「身分だけ学生、仕事は臨床医でOn-the-Job Trainingのみ」という状況を避け、研究に専念する時間を持って頂くだけではなく、選択分野に関しては授業・実習を含めた教育をしっかり行います。主な研究内容は以下です。
- ネフローゼ症候群、血管炎症候群に対する生物製剤の効果と安全性の検討
副腎皮質ホルモンの使用量を減らし、合併症の軽減と生命予後の改善を目標に、慎重かつ積極的に生物製剤を導入しています。製剤投与に関わる患者さんの負担軽減の為、当院では外来日帰り投与も可能です。
- 高齢者慢性腎臓病の治療に関するエビデンスの創出
高齢者は腎機能が低下しており、末期腎不全に至る例も急増しています。腎代替療法にはリスク(血液透析における心負荷、腹膜透析における汎腹膜炎など)があり、高齢者では必ずしも生命予後を改善しない場合もある事が知られています。患者さんの生活の質まで考慮した、安全で適切な末期腎不全医療のあり方について検討しています。
- MRI(magnetic resonance imaging)を用いた慢性腎臓病の非侵襲的評価法の検討
当科では慢性腎臓病の評価にMRIを積極的に利用しています。無被曝で精度の高い画像を得ることが可能です。保険適応内の検査から、患者さんと担当医師に可能な限り多くの情報を還元出来る様、放射線科、医用生体工学科と共同研究を進めています。
- 腎線維化にかかわるCCN2の機能解析と治療への応用
CCN2は慢性腎臓病進行に関わる因子で、尿細管上皮細胞から分泌されて腎間質の線維化に関わります。CCN2の機能を詳細に分析して、腎臓の線維化に特に深くかかわる部分を見つけました。副作用が少なく効果的な慢性腎臓病治療薬の開発を目指しています。
- 組織特異的NFkB抑制による腎老化予防効果の検討
高齢化社会にある本邦では、末期腎不全の原因として加齢性変化を基礎とする腎硬化症が増加しています。老化の分子メカニズムのひとつとされるNFkB経路に注目して、組織特異的に同経路を阻害する遺伝子改変動物を作成し、加齢による腎硬化症のメカニズムを検討しています。
- ヒトを対象にした研究調査や遺伝子改変動物の取り扱いについては、学内・院内の規則に則り、必要な手続きを経て、細心の注意を払って行っています。